■ はじめに
2026年3月期の連結配当性向は40.9%でした。ところが2027年3月期の会社予想では34.3%まで下がります。減配するわけでも、配当が据え置かれるわけでもありません。会社予想は増配です。
理由は、2026年5月14日に株主還元方針そのものが変わったことにあります。旧方針の「連結配当性向40%以上」から、配当については政策保有株式の売却損益を除いた「修正純利益」の50%程度を目安とする方式へ変更され、あわせて自己株式取得を含む「総還元性向50%以上」という考え方も導入されました。配当を決めるときの分母が入れ替わり、還元の枠組みそのものが組み替えられています。数字だけを並べると読み違える銘柄です。
■ 基本データ
・1株当たり年間配当金:2026年3月期 185.0円(実績)/2027年3月期 47.5円(会社予想)
※2026年8月1日に1株→4株の株式分割を実施しています。実績185.0円は分割前、予想47.5円は分割後の金額です。分割を考慮しない場合の2027年3月期予想は年間190円。
・連結配当性向:2026年3月期 40.9%/2027年3月期予想 34.3%(公表済自己株式取得の消却予定考慮後。会社は「修正純利益ベースでは50%程度」としています)
・権利確定日:中間配当 毎年9月30日/期末配当 毎年3月31日
・株式分割:2026年8月1日(1株→4株)。その前は2024年1月1日(1株→2株)
⚠️ 配当利回りは株価の変動により毎日変わります。投資判断の際は必ず最新情報をご確認ください。
なお、noteマネーでは三井住友トラストグループ(8309)の株価チャートをリアルタイムで確認できます。ぜひ活用してみてください。
■ 配当方針の読み解き
2026年5月14日、中期経営計画(2026〜2028年度)の公表と同時に株主還元方針が変更されました。公式IRの記載は次のとおりです。
総還元性向50%以上を目安に株主還元を行う。
1株当たり配当金については、累進的としつつ、政策保有株式の売却損益を除く「修正純利益」の50%程度を目安に決定する。
自己株式取得については、資本の効率性向上に資する還元策として、業績、資本の状況、および当社の株価などを踏まえて、機動的に実施する。
(修正純利益=親会社株主に帰属する当期純利益−政策保有株式に係る売却損益(税引き後))
変更前は「配当性向40%以上」でした。2026年3月期の実績40.9%は、この旧方針の最終年度の数字にあたります。
変更の位置づけは、中期経営計画の資料に「株益なき世界を見据えて、株主還元方針を変更」と見出しで示されています。同社は政策保有株式の削減を進めており、保有先数は2021年3月末の870社から2026年3月末には399社へ。2029年3月末までに連結純資産に対する時価の割合を20%未満にする目標を掲げ、2025〜2028年度の削減目標も取得原価ベースで2,600億円から3,000億円へ引き上げました。
削減が進むあいだは売却益が利益を押し上げますが、削減が終われば出てこなくなります。2026年3月期の株式等関係損益1,388億円について、会社は主な内訳を政策保有株式の売却益1,616億円、ベア投信の解約損△292億円と説明しています。この売却損益を分母から外したうえで、水準を40%以上から50%程度へ引き上げる。配当の額を下げずに、配当の基礎を売却益に依存しない形へ組み替えにいった設計と読めます。
配当額の推移は、株式分割を遡って調整すると2023年3月期26.25円、2024年3月期27.50円、2025年3月期38.75円、2026年3月期46.25円、2027年3月期予想47.50円です。

■ 業績トレンド
2026年3月期は、実質業務純益3,474億円(前年度比△145億円)、経常利益4,014億円(同+338億円)、親会社株主に帰属する当期純利益3,175億円(同+599億円)。純利益は2年連続で過去最高を更新しました。実質業務純益だけが減っているのは、債券ポートフォリオの健全化オペレーション(会社試算で約△700億円)に伴って計上された一時的な要因によるものです。2027年3月期の会社予想は、実質業務純益4,200億円、経常利益5,200億円、親会社株主に帰属する当期純利益3,800億円。
第1四半期(2026年4〜6月)は、経常収益7,864億円(前年同期比20.5%増)、経常利益1,734億円(同108.5%増)、親会社株主に帰属する四半期純利益1,422億円(同56.6%増)。ここで見ておきたいのは、特別利益が前年同期の約411億円から約190億円へ減少していることです。今回の増益は、特別利益の増加によるものではありません。
■ 三菱UFJ・三井住友FGとの違い
同じ金融で、三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)と三井住友フィナンシャルグループ(8316)も持っています。どちらも過去に記事を書きました。3社を並べると、配当の決め方がきれいに分かれます。

一つ目は分母です。三菱UFJは「配当性向を40%程度とし、利益成長を通じた1株当たり配当金の安定的・持続的な増加を基本方針とする」。三井住友FGは「累進的配当方針および配当性向40%を維持し、ボトムライン収益の成長を通じて増配を実現してまいります」。いずれも分母は当期純利益そのものです。三井住友トラストグループだけが、そこから政策保有株式の売却損益を抜いています。政策保有株式の削減が利益に与える影響を、配当の決定から切り離している会社、という位置づけになります。
二つ目は総還元性向です。三井住友トラストグループは「50%以上を目安」と、方針として数値を置いています。三菱UFJと三井住友FGは、公式の株主還元方針では、三井住友トラストグループのような「総還元性向○%以上」という数値目標は掲げていません。両社とも自己株式取得は機動的に実施するという位置づけです。ただし、総還元性向の実績値そのものは決算説明資料などで開示されており、たとえば三井住友FGは2025年度決算の概要で2018年度以降の推移を【参考】として載せています。「数値を出していない」のではなく、「目標として掲げていない」という違いです。配当だけを見ていると水準の差は分かりにくいのですが、自己株式取得まで含めた枠に目標が置かれているかどうかで、還元の読み方は変わります。
三つ目は株式分割です。3社とも直近の分割時期が違うため、額面の配当金額はそのままでは比べられません。三井住友トラストグループは2026年8月1日に1株→4株。三井住友FGは2024年10月1日に1株→3株を実施したうえ、2026年10月1日にさらに1株→2株の分割を実施する予定で、分割後の1株当たり年間配当は90円になるとしています。三菱UFJは2007年9月30日の1株→1,000株以降は分割していません。分割をまたいだ期の比較は、必ず調整後の金額で見る必要があります。
どちらを重く持つかは、配当のブレをどう受け止めるかによると思っています。売却益が乗る期と乗らない期があるとき、それを配当に通したいなら純利益基準、通したくないなら修正純利益基準。私は3社とも持っているので、使い分けというより、方針の違うものを並べて持っている、という感覚に近いです。
■ 見落とされやすい点
一つ目。2025年3月期の年間配当155円には、記念配当10円が含まれます(普通配当145円)。したがって2026年3月期の185円は、表面上は前期比+30円ですが、普通配当ベースでは+40円です。会社も決算資料に「記念配当除き 前年度比+40円」と注記しています。情報サイトの年間配当額だけを並べると、この期の増配幅を実際より小さく見てしまいます。
二つ目。40.9%と34.3%は、配当の基準となる利益の定義が異なるため、そのまま並べて比較できません。加えて2027年3月期予想の34.3%は「公表済自己株式取得の消却予定考慮後」の数字で、会社は修正純利益ベースでは50%程度としています。同じ「配当性向」という言葉で、性質の違う数字が並んでいる状態です。
三つ目。2026年5月14日に決議された自己株式取得の枠は、1,400万株・500億円をいずれも上限とし、取得期間は2026年9月30日まで。取得分は2026年10月20日に消却予定です。中間配当の基準日と、取得期間の終わりが同じ日に重なっています。実際に自己株式数は、2026年3月末の182万株から第1四半期末には1,032万株へ増えました(いずれも2026年8月1日の株式分割前の株数)。10月以降の開示で、取得の最終的な規模と、次の枠が設定されるかを確認したいところです。
■ しまちゃんの総評
この銘柄は、配当の額そのものよりも「何を分母にして配当を決めているか」が論点になる会社だと感じています。政策保有株式の削減という、いずれ終わる話を配当の基礎から外しにいったのは、削減が終わったあとの配当水準を先に示しにいったとも読めます。
一方で、修正純利益という会社独自の指標は、外から検算しづらい面もあります。政策保有株式の売却損益がいくらだったかを毎期追わないと、配当性向の妥当性は判断できません。そこを手間に感じるなら、当期純利益をそのまま分母にしている三菱UFJ(8306)や三井住友FG(8316)のほうが扱いやすいと思います。この2社についても過去に記事を書いていますので、あわせて読んでいただけるとこの記事の論点がはっきりすると思います。
9月末の中間配当の権利確定は近づいていますが、この方針変更をどう評価するかは、2027年3月期の着地を見てから判断しても遅くないと考えています。長期保有を検討する際の候補の一つになり得る、というのが今の私の見方です。
■ 最後に
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。よければスキ❤️をお願いします🙏
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■ 免責
この記事はあくまで個人の体験をもとにした情報提供です。投資にはリスクが伴います。投資判断はご自身の責任のもと、最新情報に基づいて行ってください。数値・情報は執筆時点(2026年9月)のものです。最新情報は各社IR・証券会社サイトでご確認ください。
